サービス産業に付加価値が付かない限り不正は続く

タクシー運賃の問題といい、介護報酬を巡る不正といい、「適正な対価」を無視し続けた挙句に発生する問題。事業者も安全を犠牲にしてまで低価格競争に走るから業界が共倒れ状態に陥ることが多いし、客も客で適正な対価をわかっていない。さらにいうと逆に海外で一人ひとつでも十分価値があるブランド品で身を固めることも同じで、これも業者が日本で稼ぎに走るという状況。とりあえず何も検証していないので断定は不可能だが、どうも日本人は個人の金の掛け方の斑が大きそうだ。対価を巡る問題から考えを廻らせてみようと思う。
付加価値の問題として、交通手段を採り上げてみよう。一定の対抗軸を持たないタクシーは置いておくとして、ここでは公共交通同士での奪い合いという話、さらに自家用車を巻き込んだ乗客争奪戦が繰り広げられるから、「適正な対価」の話には最適だと思う。とりあえず鉄道ネタで幾つか。

乗客の判断から

いい方向に競争が傾いている例は、日光の観光客争奪戦だ。東武が質の高い特急専用車を入れてくると、国鉄は同等のサービスの準急を運行して応戦。結果的には距離や配線の問題から東武優位になってしまったが、最終的に自家用車対抗策で両者が手を組んだのは記憶に新しいところで、未だに乗客争奪戦の効果が続いているということになる。

悪い方向に傾いてしまった例は、伊勢の観光客争奪戦だろうか。今まで近鉄が特急でひとり勝ちしていたところで、JRが質が高い快速で対抗してきた。前述の日光の例とは違ってあくまで「快速」であり、車両もデッキなしの3扉というものだが、それでも特急に対して互角に戦える辺りに「低価格競争」の効果を感じてしまう。近鉄が特急を中核に置いているのはまだ救いがあるが、関西方面のこともあるためにこの区間だけでは語れないだろう。

分割民営化で首を絞められた「銀河」

さて、単に移動するだけという話であれば、品質と所要時間の差で直接勝負が付いてしまうわけだが、せっかくの付加価値が死にかけたまま勝負が決まりかけている例もある。夜行急行「銀河」。東海道本線を走る東京と大阪を結ぶ列車だが、寝台という「武器」がありながら競争から脱落しかけているという体たらくである。この区間は昼行(変換で出てこない程使われなくなったようだ)の「新幹線」対「飛行機」の対決が活発な割に、夜行はせいぜい高速バス同士で火花を散らしている程度、鉄道でこれに参戦しているのは大垣までの座席快速くらいのもので、寝台の需要がないはずはないと思うのだが、その割には選択肢から外れていることが多くなったのはやはり料金のせいなのだろうか。
ひとつ思い当たることがある。全区間の中で乗降できる駅が限られるJR東海*1区間が占める距離が長い*2。東海にしてみれば深夜に自社区間を横断していくだけの存在なので、運賃収入は別としても管理上支障になるという問題を抱えているのだろうと推定される。現状では「夜に通過されるだけ」の存在はなくせない。こういう利害対立の発生が分割民営化最大の罪であろう。ただ、ここまで存続していることを考えれば、「『なんとか梃子を入れたい』と考えられている」という希望を、まだ捨ててはいけないかもしれない。

*1:当然車内サービスや車両設備への関与はできない。わずかな乗降と運行指令のみ。

*2:熱海〜米原